「隣の住宅が空き家で所有者が誰か分からないけど、何とか管理をしてほしい」
自宅の隣に所有者が誰か分からない、管理されていない空き家があったらどうしますか?
日本国内の空き家の件数は過去最大になり、所有者不明土地の問題も今や誰にとっても身近な問題になりつつあります。
こちらの記事では、所有者不明土地とは何か、どんな対策が講じられているのか、
詳しく解説しました。
この記事を読んでいただくと、こんなことが分かります。
・所有者不明土地とは?なぜ生まれるのか?
・所有者が不明な土地が増えると起こる問題
・所有者不明土地への対策
目次
■所有者不明土地とは何か?
■所有者が不明の不動産はなぜ生まれるのか?
■所有者不明土地の問題とは何か?
・市町村の固定資産税の税収の悪化
・土地収用ができない
・衛生面・防犯面での問題
■所有者不明土地への対策は?
・土地・建物の相続登記が義務化
・所有者の氏名や住所が変わった場合の変更登記の義務化
・相続が開始されてから10年が経過すると、原則法定相続分での相続
・土地所有権の国庫帰属制度の新設
所有者不明土地とは何か?
所有者不明土地とは、その名のとおり、
「所有者がどこにいるのか、そもそもご存命なのか、分からない土地や建物」のことです。
所有者不明土地問題研究会の調査によると、
日本全国の所有者不明土地の合計面積は410万ヘクタールにも及びます。
410万ヘクタールというと想像がしづらいですが、九州の面積よりも広大な土地面積です。
特に地方では所有者不明の不動産が増え続けており、このまま対策しなければ2040年には720万ヘクタールにまで増えると試算されています。
720万ヘクタールというと、北海道の面積とほぼ同じ面積です。
所有者が不明の不動産はなぜ生まれるのか?
なぜ不動産の所有者がどこの誰なのか、分からなくなるのでしょうか?
最も大きな理由は、相続が発生したあとに、相続した人が不動産の相続登記をしていないことにあります。
以下は所有者不明土地が発生する原因をグラフにしたものです。
所有者不明土地全体のうち、相続登記がされていないことで所有者が分からなくなっている土地は、全体の65%にも上ります。
他にも、登記簿上の所有者の住所が、現住所と異なる場合が33%という結果です。
一般的には不動産の所有者が変わると、新しい所有者が所有権を登記します。
以前の所有者が亡くなった場合、相続をした人が所有権を登記するわけですが、
相続登記をせず、または自宅の住所が変わったタイミングで住所変更の登記をせずにいるのが、所有者が不明の不動産が生まれる大きな原因です。
仮に相続登記をしないと、どうなるでしょうか?
記録上は亡くなっているはずの人が、所有者という形で登記記録には残り続けます。
実際には、相続した人がその不動産を利用・管理しており、
春に役所から届く固定資産税の納付書も、相続した人が払い続けます。
このように、相続人が不動産を利用していて、固定資産税をきちんと払う状況が続けば、特に問題はありません。
ですが、相続した人が不動産を利用・管理していなかったり、
もともと管理していた相続人が亡くなると、事情は変わります。
例えば、別居している子供が相続して相続登記をしないと、どうなるでしょうか?
相続人が複数いて、数世代に渡ってネズミ算式に所有者が増え続けると、どうなるでしょうか?
結果的に、所有者が誰かわからない不動産が生まれることになります。
所有者不明土地の問題とは何か?
所有者がいない不動産である所有者不明土地ですが、一体、何がそんなに問題なのでしょうか?
所有者不明土地の問題は大きく以下の4つです。
・行政の固定資産税の税収の悪化
・土地収用ができない
・衛生面・防犯面での問題
市町村の固定資産税の税収の悪化
固定資産税は市町村にとって貴重な財源ですが、所有者が誰か分からない不動産の場合、
固定資産税を徴収することができません。
市町村は真の所有者を特定し固定資産税の徴収するために、戸籍などの調査を行いますが、
実際に居住している場所への住民票の異動がなかったり、
本籍地の変更があったり、所有者が海外に居住していたりすると、
それ以上の追跡はできず、お手上げ状態のようです。
各市町村が死亡届などの情報を共有することができないことも、この問題を生み出しています。
市町村へのアンケート調査で、
「土地の所有者が特定できずに、固定資産税の徴収に問題が生じたことがある」と返答した自治体は、全体の63%にも及びます。
人口が減少し続ける地方都市での税収の減少は、都市そのものの死活問題になっています。
新潟市も財政が非常に厳しい状況です。
民間の企業だったら、倒産してもおかしくない状況です。
土地収用ができない
所有者不明土地は、公共事業を行う際の弊害になったり、防災対策のための工事ができなかったり、東日本大震災からの復興の大きな遅れの原因にもなっています。
宮城県の津波で中心部の大半が焼失した町の例になりますが、住民のほとんどが近隣の高台に集団で移住を希望したため、町が主体となって移住計画を進めました。
まずは移転先の土地を買い取る必要があります。
用地の収用に取り掛かったのですが、ここで所有者不明の土地の問題が出てきました。
移転候補地の土地の多くで、所有者不明の土地があり、手続きが全くと言っていいほど進まなかったそうです。
相続登記がされていない100㎡の土地に、150人以上の相続人が絡むケースもあり、
その土地を購入するために、権利関係を整理し、現在の全ての所有者から合意を取り付けなければいけなかったということですから、とんでもなく大変な作業です。
数世代に渡って、相続登記がされていなかった所有者不明土地の定型的な例です。
現在では、土地収用に係る法律が整備され、ここまで大変な作業は不要のようですが、
当時の状況としては、所有者不明土地が復興に水を差していたことは間違いありません。
福島の原発周辺の土地の収用でも、同じようなことが起こっているようです。
衛生面・防犯面での問題
所有者不明土地は所有者・管理者が誰か分からない不動産です。
管理の行き届いていない空き家は、急速に朽ちていきます。
敷地内の草木が伸び放題になることから始まり、
不審者の侵入、空き家を狙った空き巣や放火などの犯罪被害、
ネズミやハクビシンなどの害獣やシロアリなどの害虫の発生と近隣住宅への飛び火、
ごみの不法投棄や害獣のふん尿などの悪臭による環境悪化、
しまいには屋根や外壁材の飛散や建物そのものの倒壊など、
地域社会への悪影響は計り知れません。
所有者不明土地への対策は?
所有者不明の不動産は税収を悪化させ、さらには近隣の地域へ直接的に被害を与えかねない社会的な問題です。
そこで、所有者不明土地を減らすために、行政は以下のような法律を施行しました。
・土地・建物の相続登記の義務化
・所有者の氏名や住所が変わった場合の変更登記の義務化
・相続が開始されてから10年が経過すると、原則法定相続分での相続
・土地所有権の国庫帰属制度の新設
・管理不全空き家の創設
土地・建物の相続登記が義務化
所有者不明の不動産が生まれる最も大きな原因は相続登記がされないことです。
そこで、2024年4月1日より相続した不動産の相続登記が義務化されました。
相続の開始(以前の所有者が亡くなったことを知った日)から3年以内に相続登記を行わない場合は、10万円以下の過料(罰金のようなものです)が科されます。
所有者の氏名や住所が変わった場合の変更登記の義務化
所有者不明の不動産が生まれる2番目の原因は、転居後の住所変更の登記が行われないことです。
そのため、2026年4月から所有者の氏名や住所が変更になった場合、2年以内に変更登記を行うことが義務化されます。
こちらも登記が行われない場合は5万円以下の過料が科されることになります。
相続が開始されてから10年が経過すると、原則法定相続分での相続
相続の開始は以前の所有者が亡くなった時から始まります。
相続税の納付は相続開始から10カ月以内、相続放棄は3カ月以内と、ルールが決まっていますが、相続税を納付するほどの財産がない相続人には、遺産分割の期限が決まっていませんでした。
今後は、相続から10年が経過すると、法律に従って、自動的に遺産分割がされることになります。
土地所有権の国庫帰属制度の新設
国庫帰属制度とは相続した人が不要と判断した土地を国が引き取る制度です。
これまで相続放棄をするにはすべての財産の権利を放棄する必要があり、
所有者不明土地が増える一因にもなっていましたが、
国庫帰属制度を利用することで相続した財産の一部のみを放棄できるようになりました。
ただし、すべての土地が国庫帰属制度の対象ではなく、以下のような土地は対象外になります。
・建物や工作物が建築されている土地
・危険な崖がある土地
・有害な物質で汚染されている土地・埋設物がある土地
・境界が不明瞭で、管理関係に争いがある土地
・担保権などが設定されている土地
・通路など他人によって利用されている土地
つまり、対象になる土地は、
「更地であること」「抵当権が設定されていないこと」「隣接地と境界の争いがないこと」
「土壌汚染や埋設物がないこと」などです。
建物や工作物がある場合は解体費用の負担が必要になります。
抵当権が設定されている場合は金融機関へ全額弁済のうえ、抹消が必要です。
境界が不明瞭な場合には境界を確定するための確定測量も必要です。
公衆用道路などの通路に利用されている土地は国庫に帰属することができません。
条件がなかなか厳しい制度です。
また、国庫に帰属させる際に、その土地の管理費相当額10年分を国へ納付する必要もあります。
宅地や農地の場合は面積にかかわらず20万円です。
土地の上で建物がある場合、建物解体費用など、大きな費用負担があり、
さらには10年分の管理費の納付もあります。
国庫帰属制度は、結局のところ、実質マイナス価格で売買して手放すのと同じ内容です。
管理不全空き家の創設
2023年に「空き家等対策特別措置法」という法律が改正され、「管理不全空き家」という言葉が生まれました。
「管理不全空き家」とは放置すると「特定空き家」になる可能性のある空き家のことを言います。
「特定空き家」は市町村などの行政から「周辺地域に悪影響をおよぼす空き家」に指定された空き家のことで、以下のような空き家が指定されます。
・著しく保安上危険となるおそれのある状態
・著しく衛生上有害となるおそれのある状態
・適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
具体的には、
・建物が傾いていて、倒壊の可能性がある
・屋根や外壁、看板、コンクリート塀などが破損しており、落下の可能性がある
・建物や敷地内に落書きや立ち木の繁殖、ごみの散乱など、周囲の景観を損ねる部分がある
・立ち木が近隣へ散乱、動物の糞尿の臭気、不審者が侵入している
などです。
2023年に実施された総務省の調査によると、全国の空き家の戸数は約900万戸、日本国内の総戸数約6500万戸に占める割合は約13.8%で過去最高の件数になり、
適切な管理がされていない空き家が周辺地域に及ぼす悪影響が社会問題になっています。
管理不全空き家の創設は、将来的に特定空き家になる見込みがあるような、管理がされていない空き家を減らすための対策です。
空き家所有者は、特定空き家はもとより、管理不全空き家にも指定されないように、空き家を管理しなければいけないという、非常に厳しい社会情勢になりました。
まとめ
所有者不明土地の問題は、核家族化、人口や世帯数の減少、人口の首都圏への集中を背景に、深刻な社会的な問題になっています。
国も所有者が不明の不動産を減らすために、相続登記の義務化、管理不全空き家の創設など、様々な法律を施行しています。
今後も空き家を所有する人にとって厳しい社会になるのは間違いなさそうです。
日本中が廃墟だらけにならないように、祈るばかりです。