まずは売却したときにかかる税額から判断する方法です。
結論からお伝えすると、相続された住宅に「被相続人の居住用財産の3000万円控除の特例」を使える条件が整っている場合は、売却をお勧めします。
今の時点では「3000万円控除って何?」という感じだと思いますが、後で詳しく説明します。また、こちらの「3000万円控除」はとても大切な税制の特例です。必ず覚えてください。知らないと何百万円も損をしてしまうことになります。そのくらい重要な税制です。
「被相続人の居住用財産の3000万円控除の特例」のとてつもない節税効果
いわゆる「3000万円控除」は一定の条件を満たすと、売却したときにかかる税金を大きく軽減できる制度です。
首都圏はともかく、地方都市の不動産の売却では、こちらの特例を利用すると、税額を0円にできることがほとんどです。
不動産の売却と税金は切っても切れない関係です。購入したときの金額よりも1円でも高く売れると、利益に対して一定の税金がかかります。
現在の不動産価格は、バブル以前の昔と比べるととても高額です。
購入してから50年前後経過した不動産を売却すると、ほとんどの不動産で間違いなく納税義務が発生します。
例えば現在の価格で2000万円のご実家を売却したとしましょう。
購入したときの金額は、当時の契約書類がないため、わからないものとします。
所有期間はご両親の世代から通算して45年です。
この場合に、納めなければいけない税金は……なんと約386万円です。
ものすごい金額です。新車1台分です。
ここで「被相続人の居住用財産の3000万円控除の特例」の登場です。
さまざまな条件があるので、全ての不動産で利用できるわけではありませんが、
条件を満たすと不動産譲渡所得を3000万円まで控除できます。
最大の節税効果は、約600万円(3000万円の約2割)です。
この例で納めなければいけない386万円ももちろん非課税になります。
売却したときの税額の計算方法
不動産を売却したときの税金を「不動産譲渡所得税」と言います。
こちらの言葉までは覚える必要はないのですが、この税金は、売却益、つまり利益にだけかかることを覚えてください。利益は下のような式で計算します。
不動産譲渡益(利益)=(売却したときの金額)-(購入したときの金額)
この計算式で利益が出た場合、利益の部分にだけ一定の税率がかかります。
税率ですが、所有期間が通算(相続前+相続後)で5年以上の場合は、利益の20.315%です。約20%、2割かかると思ってください。
購入したときの金額は、購入当時の売買契約書などの書類で税務署へ申告します。
買った当時というと、かなり昔の書類です。大切に保管していれば購入金額がわかるのですが、どこを探しても当時の契約書が見当たらないということもあります。
どこにも当時の契約書類がない場合には売却金額の5%を購入金額として扱うことができます。購入当時の金額がわからない場合の税額を計算すると、
(2000万円(売却金額)-100万円(売却金額2000万円の5%))×20.315%
=約386万円
実際には不動産業者に支払う仲介料や建物の解体費用、測量の費用も経費として扱えるため、正確な税額は若干変わります(今回は、わかりやすいように省略しました)。
ですが、大きなお金であることは変わりません。
「被相続人の居住用財産の3000万円控除の特例」はどんなときに使える?
では、3000万円控除はどんな条件を満たすと利用できるのでしょうか?
条件は以下の通り。全ての条件を満たす必要があります。
- 相続で取得した不動産であること。
- 令和9年12月31日まで、かつ相続開始日(お亡くなりになった日)から3年経過する日の属する年の年末までの売却であること(令和4年4月1日が相続開始日の場合、令和7年12月31日まで)。
- 建物付き土地で、建物は一戸建てであり、分譲マンションなどの区分所有ではないこと。
- 昭和56年5月31日以前に建築された旧耐震基準の建物であり、その建物を耐震リフォームするか、もしくは建物を取り壊して更地として売却すること。
- 相続開始直前まで被相続人(亡くなった人)が1人で居住していたこと(亡くなることで空き家になったことが条件、亡くなる前の治療目的の入院や、要介護認定を受けて施設に入所したことで空き家になった場合も適用可能)、入所・相続発生後も誰も住んでおらず、空き家のままであること。※賃貸に一度出すと、こちらの特例は使えません
- 売却で買主より頂戴するお金(売買代金と固定資産税等の精算金の合算)が1億円以下であること。
漢字ばかりでわかりづらいかもしれませんが、簡単に言うと、
「相続で引継いだ昭和56年5月31日以前に建てられた一戸建て付きの土地で、
お亡くなりになった人が生前1人でお住まいになっていて、お亡くなりになったことで空き家になり、お亡くなりになった日から3年を過ぎる年の年末までに、更地にするか、耐震工事をして売却すること、売却したときに受け取るお金が1億円以下である」ことが条件です。
建物の築年数の簡単な調べ方
この条件を全て満たす建物付きの土地のみ、いわゆる「3000万円控除」を利用できます。
建物の築年数の調べ方ですが、お手元にある登記事項証明書の内容でご確認をいただけます。下の写真は、登記事項証明書のサンプルです。写真の矢印の部分に、建物の築年数が表示されています。
もし、お手元にない場合は、お金はかかりますが、法務局に行くと誰でも取得できます。費用は、数百円です。
また「昭和56年6月○日新築」のように、登記記録上、昭和56年5月31日以前に新築されていない場合でも、3000万円控除を利用できる可能性があります。
3000万円控除を受けることができる建物は、建築基準法上の旧耐震基準の建物です。建築基準法は、昭和56年6月1日に地震への耐性についての基準が大幅に改正されたのですが、それ以前に建築確認を受けた建物を旧耐震基準の建物、それ以降の建物を新耐震基準の建物と呼んでいます。
そして、登記記録上の新築年月日は建築確認を受けた日ではありません。
つまり、実際には昭和56年5月31日以前に建築確認を受けている旧耐震基準の建物なのに、登記記録上は昭和56年6月1日以降に新築されている建物もあるということです。
登記記録上「昭和56年6月○日新築」のように、3000万円控除が利用できなそうな建物もありますが、建築確認を受けている年月日が昭和56年5月31日以前なら、3000万円控除を利用できる建物です。一般の方が調査するのは難しいと思いますので、調査のご要望がありましたら、ご相談ください。
相続してから2年弱以内に活用方法を決めないと損してしまいます
3000万円控除は相続してから一定期間(3年超)しか利用できない特例です。
例えば、令和4年中にご相続をした場合、ご売却までの期間は、令和7年の12月末までの3年超です。それまでに購入する人へ引き渡しをすることが必要です。
実際の広告・募集などの販売期間を考えると、住宅の今後について、さらに早めの決断が求められます。
相続してから2年間弱が最も長い検討期間とも言えます。
また、この制度は、所有者様にとって、とても価値のある制度なのですが、一般的にはあまり知られていない制度でもあります。
特例を利用できる条件が揃っているにもかかわらず、空き家の状態で3年以上経過してしまう所有者様が後をたちません。
そんな方から不動産活用のご相談を受けると「もう少し早くご相談をいただきたかった」と、やはり思ってしまいます。
「知らなかった」というだけで、何百万円の納税義務を背負ってしまうことは、本当にもったいないことです。これを機会に、必ず覚えてください。
3000万円控除を使える土地・建物を相続した場合、大きな税金の支払いを考えると、売却する価値は十分すぎるほどあります。
例えば、売却時の価格が1200万円、賃貸物件として貸し出すと月額6万円の賃料を見込めそうな土地建物があるとします(購入当時の金額はわからないものとします)。
売却したときの税額は……
(1200万円-60万円※)×20.315%=約231万円 ※売却金額1200万円の5%
231万円は月額6万円の賃料で換算すると38か月分、約3年分です。3000万円控除を使えると、この3年分の賃料に相当する231万円を払う必要がありません。
賃貸の場合、入居前や入居中の修繕費用は貸主が負担するため、実際にお手元に残るお金は、231万円よりもさらに少なくなります。
もちろん、賃料収入と売却時の税額を比較したとき、その金額が大きいかどうかは、それぞれの感覚によって違います。
ですが、賃貸に出すことに面倒を感じており、3000万円控除を使えるのであれば、私は基本的に売却することをお勧めしています。